ロケット理論

人はなぜ月に行けたのか~ロケット理論の実践~

1.明確な目標があったから

ロケットが月に行けた第1番目の要件は
「月に行こうと思ったからだ」と言われています。
偶然交通事故に遭うことはあっても、偶然「月」に行くことはありません。
会社の経営目標とは、交通事故の類ではなく、
「月に行く」と同様に達成しようという「志」を持ってこそ
ようやく成就できる次元のものなのです。
「念ずれば花開く」の言葉通り、何を達成したいのか、
目標を明確にしてこそ達成できるのです。

ただ、ここで問題になるのは「明確」という言葉の意味です。
本当に明確になっているかどうかです。
たとえば「速く走れ、高く飛べ。売上を上げろ、値引きを抑えろ・・・」という類の
目標になっていないかということです。

はたして従業員は一生懸命走るのですが、
100メートルを何秒で走ったらいいのでしょうか?
これでは目標があるようでないのです。
「100メートルを12秒で走れ・・・、2メートルの高さを飛べ・・・。
売上3億円・・・、目標利益1千万円・・・。月へ行け・・・、火星へ行け・・・。」
というようにできるだけ具体的な
「数値化」「特定化」を行い、
解釈する人によって異なることのないような
明確な目標設定をする必要があるのです。

明確な目標にするためにもう1つ重要なことは、
全社員が明確になっているかということです。
経営計画書を社長しか持っていないとか、
役員しか持っていないという会社が多々ありますが、
会社の目標は全ての従業員の協力がなければ達成できるものではありません。

「経営計画書を全社員に配布し、経営計画発表会を開催する」ことにより、
はじめて全社のベクトル(方向性)が一致するのです。
以上、目標達成の第1要件である「明確な目標」を設定するためには、
「数値計画化」と「経営計画発表会」も2つが実践上のポイントとなります。

2.方法論の具体化ができたから

「絵に描いた餅」という言葉があります。
たとえ明確にしたとはいえ、非現実的な目標では到底達成できません。
ロケットが月に行けた第2番目の要件は、
「月に行くための方法論の具体化が出来たから」
だといわれています。

どのようなロケットをいつまでに誰が作るのかを具体化し、
自転公転や気候状況などの外部要因を踏まえシミュレーションを行った上で
ロケットを打ち上げることにより、はじめて成功率が高くなるのです。
すなわち、目標達成方法の具体化が必要となるのです。

では、どのような具体化をすべきなのでしょうか?
1つめのポイントは「その計画を実行する人」が具体化をすることです。
目標達成の具体化方法に
「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」の
2つの方法がありますが、できれば現場参加型のボトムアップ方式が効果的です。
なお、トップダウン・ボトムアップには以下の2つの考え方があります。

①到達目標を先に決め、どう達成するかを具体化する(トップダウン)
   現状からどう積み上げていく事ができるかを具体化する(ボトムアップ)

②トップが具体化し、現場にブレークダウンしていく(トップダウン)
現場の意見を積み上げて具体化していく(ボトムアップ)    

この2つの考え方です。
ここでいうボトムアップ方式とは、
②のトップダウン・ボトムアップを意味します。
時間と労力がかかりますが、経営者と現場の意見を
すり合わせながら積み上げていくことにより、
「実現可能性の高い計画」ができると共に、
経営計画作りに参画した「現場責任者の経営意識が向上する」という効果も得ることができます。
ただし、経理公開が前提となり、経営者にとっては少し勇気のいる立案方法でもあります。
売上や原価の計画まではスムーズに行くのですが、
経費面に移ると人件費や交際費、支払利息などが見えたり、
赤字や債務超過が見えたり、従業員には知られたくない部分に触れざるを得なくなるからです。
場合によっては従業員の志気に悪影響を及ぼすこともあり得るからです。
無理をせずに、最初はトップダウン方式からスタートし、
土壌が育ってからボトムアップ方式に移行するのも1つの方法です。

方法論具体化の2つ目のポイントは「アクションプラン(行動計画)に落とし込むこと」です。
誰が、いつ、どのような役割を果たす事により目標が達成できるのかをかみ砕き、
成功へのシナリオを作ることです。
数値計画とその裏付けとなる行動計画は表裏一体の関係にあり、
方法論の具体化にどちらも欠かすことが出来ません。

「志立ちて半ば成就」のたとえ通り、
この達成要件の1つ目と2つ目が満たされた段階で
目標は50%達成できたようなものです。
経営の最高責任者が方向性を示し、
数値化・特定化等により明確化され、
全社員に計画書が配られ、
経営計画発表会にて全社員で確認をしました。
また、その計画は現場の意見を取り入れて作成されており、
誰が、いつ、どのように役割を果たしていくのかも具体化されました。
あとは、残りの50%です。

3.軌道修正の仕組みがあったから

ロケットが月に行けた第3番目の要件は
「軌道修正が的確であったから」といわれています。
月に行く過程には様々な障害や、予期せぬことが発生し、
当初の計画通りに行くことはなかなかできません。
コンピュータを駆使し、タイムリーに現在位置を確認するとともに
「ズレ」を修正しながら目標に向かって突き進んでいく事が第3の要件となります。

すなわち

①ズレがわかる仕組み 
②ズレを修正する仕組み

の2つの達成管理の仕組みが
会社の中に確立される必要があるのです。

まず「ズレがわかる仕組み」とはどのようなものでしょうか?

単なる実績だけではなく、計画値と実績値が比較表示され、
パーセンテージや差額によって「ズレ」が把握できるような予実管理の仕組みをいいます。
「戸がはずれていれば直そうとする」ように、
人は「ズレ」を認識したときに改善意識が働くのです。
なお、数値面だけではなく行動面に関しても、
この「ズレ」が分かる仕組みを確立することが達成管理に欠かせないのです。

しかも、それは「タイムリー」にわかる必要があることです。
以前、年商数十億のとある社長から、
「3ヶ月前の試算表が会計事務所から提出されていない」
と聞かされたとき
「よく経営をしているものだ」
と愕然としたことがあります。
当然、社長も顧問会計事務所に憤慨していました。
試算表や予実管理などの経営情報を1ヶ月遅れで作成しても、
次の意思決定やアクションにどのように活かすことができるのか大変疑問です。

経営会議では「ニュース(情報)」が必要なのであって、
「ペーパー(新聞紙)」は必要ないのです。
すなわち、「ズレ」が「タイムリー」にわかる仕組みが重要な意味を持つのです。
そのためには、経理の自社処理(自計化)による月次決済制度を確立する必要があります。

もうひとつ必要な仕組みは「ズレを修正する仕組み」です。
分かった「ズレ」を修正する仕組みが必要となるのです。
それは「経営会議」という経営機能に集約されると言っても過言ではありません。
月初に社長及び経営幹部の参加により「経営会議」を行い、先月の結果を踏まえ、
今月以降どのような手を打って改善していくのかを意思決定し、即行動に移すのです。
前述したように、どのような状況でも環境のせいにできないのが経営者です。
経営者は経営幹部と協力し、
あらゆる知恵を駆使して、
環境に適応し、
生き残りのための「手」を打って行かねばなりません。
組織経営を行っていない会社であっても、
経営者ひとりでこれを実践して行かなければ、
良い経営どころか、生き残ることもできません。

以上の2つの仕組みにより、
軌道修正が的確に行われた会社が
目標達成できるのです。